第35話 恐怖の面接室
立山が案内してくれたのは、壁一面をモニターディスプレイに囲まれたオフィスだった。
大小さまざまな画面に、いくつもの部屋が映し出されている。
その一つには、大勢のエンジニアらしき男たちが映っていた。
誰もがパソコンに向かい、黙々と作業を続けている。
少なくとも、さっき見た警官や自衛官のようには見えない。
顔色も普通だ。
どう見ても、生身の人間だった。
「あれがエイリアンの頭脳だよ」
立山が言った。
僕は思わず彼を見た。
「エイリアン?」
「ああ。そしてドローンの生命線でもある。あそこで作られた信号が端末からアンテナを経由して発信される。それを受けてドローンが動くわけだ」
立山は得意そうに説明した。
「なかなかイカすだろ。俺が組んだプログラムじゃないけどさ」
僕と平石は顔を見合わせた。
船橋が言っていたエイリアンって、何なんだ?
少なくとも、画面に映っているのは人間だ。
エイリアンに操られているのか。
協力しているのか。
それとも――。
考えていると、立山が僕の肩を叩いた。
「こっちの方が面白いぞ」
顎をしゃくって、別のディスプレイを示す。
そこに映っていたのは、薄暗い部屋だった。
真っ暗ではない。
ただ、意図的に照明を落としてある。
「あれを見てみな」
立山が言った。
「公務員だけじゃなくて、これからは一般人にも活用範囲を広げていくらしい」
僕はその言葉を平石に伝えた。
平石の表情が曇った。
〈何をするんだ?〉
〈分からない〉
「これから面白いショーが始まるよ」
立山が笑った。
面白いショー?
画面を見た。
暗がりの奥に、少しだけ明るい場所がある。
そこには一つのデスクがあり、男女二人が並んで座っていた。
スーツ姿。
どう見ても面接官だった。
二人とも顔を伏せ、デスクの上に置かれた書類をじっと見つめている。
履歴書だろうか。
やがて部屋のドアが開いた。
若い男が入ってきた。
就職活動中なのだろう。スーツを着て、鞄を持っている。
男は二人に向かって一礼した。
何か挨拶している。
しかし、面接官は顔を上げない。
若者は戸惑いながら、椅子に腰を下ろした。
しばらく何も起こらなかった。
奇妙な面接だった。
若者がもう一度、何か話しかけた。
その瞬間だった。
二人の面接官の肩が動いた。
小刻みに震えている。
若者も異変に気づいたらしい。
椅子から少し腰を浮かせた。
面接官の一人が、ゆっくりと顔を上げた。
僕は息を呑んだ。
見覚えのある顔だった。
いや、その人物を知っているわけではない。
街で何度も見てきた顔だ。
血色の悪い肌。
落ちくぼんだ目。
焦点の合わない視線。
もう一人も顔を上げた。
同じだった。
若者が何か叫んだ。
その声に反応した。
二人が同時に立ち上がった。
若者は後ずさりし、慌ててドアへ向かった。
ドアノブを回す。
開かない。
もう一度回す。
開かない。
若者は必死にドアを叩いた。
助けを求めている。
そのたびに声を上げているのだろう。
そして声を上げるたびに、二人の動きが激しくなった。
僕は思わず画面から目を逸らした。
だが、すぐにもう一度見た。
二人は若者に襲いかかっていた。
若者が床に倒れる。
その上に二人が覆いかぶさった。
画面の隅で、若者の足だけが激しく動いていた。
やがて、その足も動かなくなった。
僕は立山を見た。
立山は平然と画面を眺めている。
「……死んだんですか?」
「たぶんな」
それだけだった。
僕は何も言えなかった。
平石が僕の腕を掴んだ。
〈何が起きた?〉
僕はしばらく手を動かせなかった。
ようやく平石に伝えた。
〈面接官が感染者だった〉
〈それで?〉
〈応募してきた男を襲った〉
平石は画面を見た。
〈死んだのか?〉
僕は頷いた。
立山が別のモニターを眺めながら言った。
「まだ実験段階らしいけどな」
「実験?」
「一般人にも使えるかどうか、いろいろ試してるんだよ」
僕は立山を見た。
「じゃあ、あの人は……実験のために?」
「さあ。詳しいことは知らん」
また、それだ。
詳しいことは知らない。
だけど、ここで何が行われているかは知っている。
人が殺されることも知っている。
それでも、この男はここにいる。
僕はもう一度ディスプレイを見た。
面接室には、動かなくなった若者が残されていた。
さっきまで就職面接に来ただけの人間だった。
その時、画面の端に小さな表示が出た。
『TEST COMPLETE』
僕はその文字をじっと見つめた。
そして、ようやく分かった。
あの若者は最初から面接を受けに来たんじゃない。
実験材料として、ここへ呼ばれたのだ。
つづく
